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東京高等裁判所 昭和36年(う)1806号 判決 1961年11月27日

被告人 金原斉

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中八十日を原判決の本刑に算入する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴の趣意第一点及び被告人の控訴の趣意一について

所論は原判決は原判示第二の準強姦致傷の事実を認定するにあたり被害者宮島きよ子に対する証人尋問調書を証拠に採用したが、小栗有恒作成の精神鑑定書によれば右きよ子の知能は精神年令四年六ヶ月程度のものに過ぎないから右証人尋問調書は証拠価値がないものというべく、従つて右準強姦致傷の事実はこれを認むべき証拠がないと主張するのである。

よつて案ずるに、右鑑定書によれば被害者宮島きよ子は昭和二十年四月十二日生れであり、事件当時は満十五年七ヶ月余であつたが、脳性小児麻痺後遺症のため痴愚級の精神薄弱者であり、知能は精神年令四年六ヶ月程度のものであることが認められる。しかしながら知能が精神年令四年六ヶ月程度のものの供述といえども、供述事項によつては、必ずしも信用性がないとは解せられない。しかして原審証人大杉いし、宮島ひさゑの各供述及び右鑑定書によれば、きよ子は言語障害は著しいが簡単な事柄についてはかなりの程度に理解並びに意思伝達の能力があり、また興味のあることや新しい体験についてはある程度記憶力もあつて知らないことは知らないと答え作話癖等の偽記憶はないことが認められる。してみればきよ子に対する証人尋問調書中少くとも、見付のおじちやんが人形買つてくれた。もつと大きい人形を買つてやるからといつてそれからお寺へつれて行かれた。おじちやんに乳をいじられ、ズロースをぬがされてねかされた。おじちやんはズボンを降ろしてきよ子の上に乗つてきたが、とても重かつた。きよ子泣いたとの旨の記載部分は信用するに足るものであると認められる。

なお所論はきよ子が証言したのは事件より約六ヶ月も経過した後であるから、同人の精神年令に徴しその記憶が疑わしいというのである。

案ずるにきよ子が証言したのは昭和三十六年五月二十二日であり、事件からは五ヶ月近くも経過しており従つて、同人の前記知能程度に鑑み、その間における他よりの暗示的影響等について慎重でなければならないことは勿論であるが、きよ子はすでに事件の翌々日頃には母親ひさゑらに対し右摘示部分とほぼ同趣旨のことを話したことが認められるから、きよ子の証言が右期間経過後になされたということだけでその記憶に疑があるとは必ずしもいえない。

これを要するに原判示準強姦致傷の事実は挙示の該当証拠を総合すればこれを肯認するに足り、記録を精査検討しても原判決に事実誤認または理由不備の違法は存しないから、論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)

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